1.葛飾北斎の部屋
「赤富士」の不思議
1.「赤富士」の初摺は?

中右瑛
氏の「浮世絵ミステリー巷談」に「赤富士」に関して面白い話が出ています。

平成1年4月18日、葛飾北斎の140回忌記念で「
1日だけの北斎展」が東京銀座の元リッカー美術館で開催されました。そこで「赤富士」8点が出品されました。 薄い赤、目を射るような強烈な赤、さまざまな「赤富士」が揃っていたようです。

浮世絵バイヤー「どの『赤富士』が最もよかった」
浮世絵研究家 「薄い赤のものがイイと思った。この手は今まで見たことがない。初摺りかも?」
浮世絵バイヤー「やわらかい色あいの赤が実にキレイ。今まで知られていた強烈な赤とは対照的ですね。」
浮世絵研究家「初摺りと思われる作品には、青い空も薄く、加えてマバラな調子がついている。そこがまた美しい。

ここで言っている「薄い赤のもの」というのは、多分M美術館所蔵のものと思われます。確かに、M美術館所蔵のものは通常の「赤富士」のイメージとは異なり色が薄く、落ちついた雰囲気で私も好きな一品です。
ところが、M美術館の図録には「
改印、版元永寿堂の印のあるものは初摺といわれている」と書かれています。M美術館所蔵のものは版元が西村屋与八だそうですから、これによりますと初摺ではないと言う事になります。一体、初摺はどこにあるのでしょうか?



2.「赤富士」は『異版』だらけ?

皆さんの手元に「赤富士」の図録が幾つかあれば、よ〜く比較してみて下さい。同じ物がありますか?
私の手元には、下記の5種類の図版がありますが一つとして同じものがありません。
(似たものはありますが、細かい部分が異なります)
1)MOA美術館
2)東京国立博物館
3)ニューアーク美術館
4)葛飾北斎美術館
5)ホノルル美術館
墨板が異なると言う事は、後摺ではなく「異版」だと言う事になります。一体どの「赤富士」が本物なのでしょう?
ちなみに、上記の中右氏の著書の中には、ある古老の話として興味深い事が書いてあります。

赤富士」は北斎が描いたのではない。アレは明治になって作られたもの。商人たちが海外輸出向きに仕掛けたのサ。 『富嶽三十六景』は四十六景が全揃いで、当初、三十六景で完結しようとした北斎だったが、その後、次々と追加したのだよ。もう一つの北斎の傑作本『富嶽百景』は全部で三巻。だが、その内の一巻は没後に補足したのだ。『北斎漫画』もそうだ。明治にしてやっと全巻完成した。没後の分については北斎筆なのか、どうかわからないものも混じっている。『富嶽シリーズ四十六景』も、同じく没後に補足されたものもあるはずだ。それが「赤富士」なんだよ。
「赤富士」にはもう一つ重要なナゾがあるんだよ。それ
は「赤富士」の版木のキズで、図の下方に小さな版キズが見られる。これは単なる彫師のミスではない。北斎だったら小さなキズでも見逃すはずはない。ワザと仕掛けたワナなんだ。

古老の話には迫力があった。北斎に限らず浮世絵には、明治に作られた仕掛けものや、また明治再版が多い。しかし、「赤富士」が明治版とは考えられないが、疑惑はつきないのである。

どうですか? 中右氏の書くように「赤富士」が明治版とは思いたくないですが、異版が多いのは非常に気になる所です。
一体どれが本物なんでしょうね?

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「赤富士」こと 富嶽三十六景 凱風快晴 (私蔵品)