ウィルソン氏の乾山鑑定
ウィルソン氏に異を唱える
ウィルソン氏の「The Potter's Brush」という本があります。これはある意味すごい本です。
アメリカのワシントンDCにあるフリーア美術館所蔵の乾山作品84点についての鑑定結果を書いた本です。それらの作品に関して、乾山作品、伊八作品、後世の写し、贋作、という具合に分類しているものです。これは勿論美術館の協力がなくてはできないものだと思います。どこの美術館でも自分の所蔵品が贋作だとは言われたくないものですが、この辺りはさすが米国の美術館は違うな〜と感心しました。ちなみにウィルソン氏の鑑定では、乾山作品とされたものが10数点だけでした。
ウィルソン氏は、日本にある乾山に関しても「尾形乾山 全作品とその系譜」で、同様の分類をしていますが、こちらの方は「The
Potter’s
Brush」に比べると歯切れが悪く、所有者に対する配慮なのか、明確な書き方をしていません。
しかし、その本の中でも何故か「佐野乾山」に関しては、明快に贋作と断定しています。
ウィルソン氏の考察は、長年の自らの足を使った研究をベースにしたもので、非常に説得力があり納得させられる部分が多く、その鑑定結果には信用が置けるものと思います。そして敬意をはらうべきものだと思います。
しかし、一点だけ納得できないことがあります。
昭和30年代の日本の陶磁界では、ウィルソン氏の鑑定によると乾山の作品に分類されることのない乾山様式の後世品、贋作、伊八作品などの多くが本物として陶磁全集や美術選書などに掲載されていました。
そのように低い鑑定レベルであった当時の日本の陶磁界が「佐野乾山」をあれだけ明確・徹底的に否定できたことを、ウィルソン氏はなぜ不思議に思わないのでしょうか?