ウィルソン氏の主張は・・・?
ウィルソン氏に異を唱える
リチャード・ウィルソン氏の「THE ART OF OGATA KENZAN」の「佐野乾山」に関する記述を読み直していますが、ちょっとビックリした事があります。
How could they overlook the modern materials like chrome oxide in the pottery pigments,.. |
という記述です。ウィルソン氏は、やはり「佐野乾山」事件当時の日本で出版された本を良く読んでいないではないか、と疑いたくなる記述です。これに関しては、とうの昔に(46年前に(笑))決着が付いていたと思いこんでいました。
これに関しては、渡邉達也氏の「真贋 尾形乾山の見極め」から引用します。
いち早く贋作説を表明したのは日本陶磁協会会長の梅沢彦太郎氏などの関係者一同であり、それは正気の沙汰とも思えぬほどの発言といえた。その理由の一つをあげてみると、黒絵具は、「大正黒」で現在使用されているものだという。つまり、一部に緑、黄の色を呈しているから、間違いなく現代の贋作だと極めつけたのである。 この黒色について、専門家の重要な証言があるので次に記してみる。発見の報道がエスカレートして、社会問題にまで発展し始めた翌三十八年の十一月十一日、蒐集家の森川勇氏が、佐野乾山作品を五、六点持参し、宇都宮市の栃木会館において、栃木新聞社主催の一般公開「佐野乾山問題に関する座談会」で、検討のため資料として観覧に供してくれた。この席上に座談会出席者として、京都工芸指導所技官・陶芸家吉竹英二郎氏の「大正黒」について発言記録があるので紹介してみよう。 「新聞で乾山の黒は大正黒であるということを聞いておりまして、一応、大正黒でこういう数種の薬を使ってやってみたのでありますが、大正黒というものは市販されているもので、その調合の内容はわかりませんけれど一応、私たち専門家として酸化クローム、鉄、若干のコバルト、この三つのものが組み合わされて加焼され粉砕されて絵の具にされておるということが言えるのであります。それを低火度の顔料の下で書きますと加焼されておりながらその性質を失って本体を現す。クロームはこの釉薬の下では、濃いところでは黒に見えますけれども、薄いところでは緑を呈し、黄色いぼかしが出てくる。そういうものが乾山にない。二色の黒を使っている乾山の黒の中に青くでているのを大正黒と間違っているんじゃないかと思います。乾山の黒にはぼかしがはいっていない。骨書きは骨書きではっきりし、青は青ではっきり出ている。線のはしに青と黄のまじったぼかしは少しも見当たりません。それはクロームを使っていないという証拠じゃないかと思います。」 |
専門家にこれだけ主張されていると、これに反論するには新たな証拠が必要だと思いますが、その提示もありません。当時話題になっていた「佐野乾山」を実見していないと思われるウィルソン氏はどのように考えているのか不可解です。